「最新プラットフォーム戦略‐マッチメイカー」        「プラットフォーム企業のグローバル戦略」          「プラットフォーム・レボリューション」

「最新プラットフォーム戦略‐マッチメイカー」デヴィット・エヴァンス、

リチャード・シュマレンジー 平野敦士 訳  朝日新聞出版  2018.5.30


「プラットフォーム企業のグローバル戦略」立本博文 有斐閣 2017.3.30


「プラットフォーム・レボリューション」ジェフリー・パーカー、マーシャル・

アルスタイン、サンジ―ト・チョ-ダリ― 

妹尾堅一郎監訳 ダイヤモンド社 2018.8.22


GAFAの動向は連日メディアを賑わせており、中国の台頭に伴いBATにも着目されるとともに、貿易摩擦をはじめ米中の覇権争いの帰趨が注目されている。これらの企業はプラットフォーム企業としての側面を持ち、その観点から様々な分析がされてきているところである。今回の三点の書籍はその一部に過ぎないが、プラットフォーム・ビジネスモデル広くとらえる視点や紹介事例など重複する面もあるものの、各々特色のある違った角度から研究し、それぞれ結論を導いているところは興味深い。

「最新プラットフォーム戦略‐マッチメイカー」は、プラットフォームは経済活動のフリクションの解消を目的とするマッチメイカーが生み出したもので、そのビジネスモデルは数千年来のものであるが、近年のICT技術の活用により急激に発展してきたとみる。そして従来の経済学は最近までこの状況を的確に説明していないと指摘する。

「プラットフォーム企業のグローバル戦略」は、まさにこの指摘に応えているようなもので、計量経済学の手法も駆使し、プラットフォーム企業の競争優位性等についてさまざまな論証を行っている。なお同書は第34回電気通信普及財団賞―テレコム社会科学賞(奨励賞)を獲得している。

「プラットフォーム・レボリューション」は、著者は経済学者ではあるが、実務に近いところから見たプラットフォーム企業の実情を解説し、ビビットな実例が多数紹介されていて、事業の内側も理解できる内容になっている。


「最新プラットフォーム戦略‐マッチメイカー」

 世界最大級の企業はマッチメイカーである。アリババ、アップル、フェイスブック、グーグル、マイクロソフト、ニューズコープ、楽天、テンセント、VISAなど。またエキサイティングで高価値のスタートアップも、Airbnb、ブラブラカー、ディディチューシン、フリップカード、レンディングクラブ、ピンタレスト、スポティファイ、ウーバーなどである。

 これらの企業は、フリクション(経済学者の言うトランザクション・コスト)の低減を図っているが、ビジネスモデル自体は数千年前から存在しているにもかかわらず、経済学者はそれが如何に成立するか説明せず、これらの企業は、まっとうな経済学の教科書が採用しないビジネス戦略をとっている。今日ではマルチサイド・プラットフォーム(MSP)と呼ばれているが、ジャン・ティロールはMSPに関する先駆的研究でノーベル経済学賞をとっている。MSPとは2つ以上の顧客を呼び寄せ、彼らが相互に魅力的な条件で売買することを可能にすることである。重要なインプットとは通常顧客そのもので、顧客に課金するより報酬を支払ってる、あるいはサービスを提供していることもあり、これがマッチメイカーか否かの重要なメルクマールとなる。それにはショッピングモール、コンピュータのOS、雑誌なども含まれる。

 90年代の商用インターネット、00年代のモバイルブロードバンドの開始により、PCプログラミング言語の発展とともに、あらゆるビジネスのトランザクションコストの低減が始まった。この20年におけるペースは凄まじくさらに加速しており、インターネットとスマホがマッチメイカービジネスモデルをターボ化している。

 VHSの勝利を、経済学者はより多くのユーザ獲得によると1サイド的に分析しているが、真の勝因は補完的間接ネットワーク効果により消費者とコンテンツ・プロバイダーの両方を獲得できたことで、ベータ規格を市場からはじき出した。 DVD戦争についても、HD- DVD陣営はスタンドアロン型プレイヤーの販売に重点を置きユーザ獲得では先行したものの、ワーナーブラザーズが撤退。ブルーレイ陣営はコンテンツプロバイダーの獲得に成功して勝利した。

 ネットワーク効果は、2000年以前に考えられていたよりはるかに広範で複雑。多種多様な世界のビジネスで間接ネットワーク効果が認められる。そこでは、ビジネス構築、製品デザイン、オペレーション、価格決定が影響を受ける。

従前のネットワーク効果に関する知見の多くは間違いである。例えば、ファーストムーバー・アドバンテージについては、間接ネットワーク効果が認められるほとんどの業界でファーストムーバーは敗北した。ウイナーテイクスオールも相当怪しく、SNSの勝者は一時的で、フレンドスター、マイスペース、フェイスブックと覇権が移り、今後どうなるかわからない。米国には4つのメジャーなクレジット会社があり、いくつものショッピングモール・デベロッパーが存在する。マッチメイカーは自らを差別化できるのであり、ネットワーク利用者はいくつかのネットワークを同時に併用するマルチホーミングをしている。クレジットカードは複数持っていても、デスクトップPCのOSは1種であり、間接ネットワーク効果の及ぶ範囲は業界によって異なる。

 マッチメイカーにとっての価格設定は、伝統的ビジネスのそれよりはるかに複雑な問題で、全サイドのメンバーをつなぎとめ、各サイドのメンバー同士を繋げ交流させるためにメンバーの興味関心をバランスしなければならない。ボリュームとマージンのトレードオフを、間接ネットワーク効果が引き起こす各サイドの相互依存した要素を考慮した上で、検討する必要もある。

 どれくらいのサイドを保持するかも要検討であり、供給を他方のサイドの参加者に依存しきるより、自ら調達した方がいい場合もある。例えばPC業界では、アップルはアプリケーション・ディベロッパーと消費者の2サイドプラットフォームだが、マイクロソフトはハードを加えた3サイドのプラットフォームになっている。アップルはハードとソフトの協働を最適化できたが、イクロソフトは多くの製造メーカーの利害を調整しなければならない。

 マッチメイカーの構築、起爆、運営について、MSPとしてクリティカル・マスに達するためにはコミットメント戦略等が必要で、自社で供給する方法もある。アップルが2007年iPhoneをリリースした時にはAppstoreもアプリ開発会社もなく、アプリを自社開発した。アップルペイについてはクリティカル・マスに達しなかった。iPhoneに加え店舗側にも新端末が必要だったからである。対照的にスターバックスは2011年直営店でモバイル支払いアプリをローンチした。QRを表示し店舗側はそれをQRコードリーダーで読めばいいからである。

 MSPは今日の経済において重要な役割を果たしているが、さらに影響は増加している。しかし誰も異なった種であることを認識していなかったのである。

 なお訳者は冒頭で、近年日本でも多くのプラットフォーム運営のベンチャー企業が上場しているが、大企業の経営者はいまだにシングルサイド・ビジネス志向のままと指摘し、何を作って売るかでなく、どんな場を作ろうかという発想の転換が必要と訴えている。



「プラットフォーム企業のグローバル戦略」

 オープン標準化の制度的な起源は、1980年代の独禁法緩和によって、コンソーシアムやフォーラムで標準規格の開発が可能となり、従来のデジューリ標準、デファクト標準に加えて、コンセンサス標準が生まれた。欧州では1988年ETSIが設立され、標準規格策定主体がCEPTから移管されたのが契機となる。コンセンサス標準は、市場プロセスと非市場プロセスを用いる新しい標準化で、オープン領域を広めに設定できるとともに各企業の戦略を反映するのでクローズ領域も内包し、戦略的に自社の競争力を拡大する。

 オープン標準化がもたらす新しいタイプの競争戦略がプラットフォーム戦略で、従来の自社のプロダクトの競争力を重視する戦略とは異なり、自社と補完材企業で形成されるエコシステムの拡大を目指すものである。ネットワーク効果が働く製品、標準規格利用者が多いほどユーザの効用が拡大する。これがグローバル標準のメリットで、IT、エレクトロニクス分野では常に試みられている。

 プラットフォーム企業の研究は2000年以降盛んになり、経済学的な競争戦略研究と経営学的マネジメント研究を源流とし、近年これに標準化、知財戦略研究とイノベーション研究が合流、学際的な雰囲気にあるという。

 プラットフォーム企業は「ネットワーク効果が存在する2つの市場の両方と取引を行う企業」と明確に定義され、飛躍的に研究が進化した。プラットフォーム戦略とは複数市場間の関係性を利用し、取引ネットワーク上のハブにポジショニングすることで情報アクセスと情報コントロール優位性が生まれる。またそのため独特の価格戦略を持つ。

 その戦略は二面市場戦略とバンドリング戦略の2つにモデル化される。二面市場戦略では間接ネットワーク効果のある2つの市場を仲介する。戦略的にネットワーク効果を生成するが、その際使われるのがオープン標準化による標準の設定であるああ。バンドリング戦略は隣接市場への影響力の行使で、プラットフォーム企業が行うのはプラットフォーム包含と呼ばれるが、例えばマイクロソフトのオフィスはワードとエクセル、パワーポイントをセットにしている。

 戦略的標準化とグローバル・エコシステムに関する事例研究としてGSM携帯電話を採り上げる。プラットフォーム企業が戦略的標準化を行うと、システムのアーキテクチャーが、オープン領域とクローズ領域に二分される。オープン領域では新興国企業が技術情報を得て参入し、低コストオペレ―ションで競争力を拡大して市場成長を牽引する。標準化により多様性は制限されるので激烈な価格競争となって先進国企業は退出する。他方クローズ領域ではプラットフォーム企業が市場シェアを維持する。クローズ領域の変化は従来の研究では注目されていなかったが、GSMの例では、基地局と基地局制御装置の間のインターフェイスを秘匿し、能力増強用基地局を提供できたのは既存の通信設備企業のみであった。

 Forbes誌トップ100社中60社がプラットフォーム効果を利用しているとされ、ビジネス・エコシステムの中心として注目されて、今までに多くの研究蓄積がある。「ネットワーク効果」「補完材企業」「オープン標準」が共通コンセプトであるが、既存研究は事例研究と理論研究が主で、定量的実証研究を欠いている。ここで、取引ネットワーク上のポジショニングに関するプラットフォーム企業の行動仮説としてハブ位置取りにより競争力を拡大しているかを設定する。今まで実証検証はほとんどない。実証分析とネットワーク分析の結合の結果では、高媒介中心性は、新興国向け販売率の高さに支えられ、前者のみでは効果はない。この2つにオープン標準化活用を加えた3点要素のパッケージが、広範にネットワークの構造変化を引き起こす。事例として半導体製造装置企業については、そのプラットフォーム戦略の効果として、コミュニティ媒介機能がプラットフォーム企業に集約され、他のノードは周辺に追いやられている。

 グローバル・エコシステムの拡大について、まず、エコシステム・マネジメントと周辺機器参入の事例として、インテルのプラットフォーム戦略を考察する。同社は1990年代のPentium CPUの成功によりプラットフォーム企業と認められた。同社の主導で1993年PCIバス規格をCPU周辺からシステム全体に拡張し結果、パソコンのアーキテクチャーまで標準化した。そしてハブ・インターフェイスは特許ライセンスの許諾限定と技術情報の隠ぺいにより秘匿化しつつ、外部はオープン領域として、多量のCPUパワーを必要とするUSB規格をインテル主導で導入するなどにより、周辺市場を活性化した。1995年から2003年までの8年間で、HDDの価格は4割弱になり完成品としてのパソコンも6割強まで下がったが、CPUは10%下がっただけである。日本のDRAM産業の優位が大きく崩れたのは90年代後半で、2000年前後で大きくシェアを落とし、韓国、台湾の企業が伸長するが、DRAMやHDDの競争パターンは差別化競争から投資競争に変わっていたのである。

 続いて、共存企業との関係マネジメントの事例としてインテルと台湾ODM企業の関係を分析する。プラットフォーム企業は企業間協業体制を戦略的に管理し、オープンネットワークのコア・ネットワーク化を防ぎつつ、製品にモジュラリティ(分業ネットワーク上の仕組み)を獲得する。最小限の相手と知識を共有しながら、一方で短期間に知識スコープとタスクスコープを再度一致させ、その間にレファレンス・デザインを開発する。製品アーキテクチャと分業ネットワークの構造については、従来の研究の焦点は前者が後者に与える影響だったが、表裏一体の相互作用であり、本書では後者の前者に与える影響も考慮する。インテルはCPUと同時にチップセットも供給しているが、そのチップセットを台湾のマザーボード企業に提供している。そうしてパソコン産業に垂直統合から水平分業への変化を促した。半導体産業にも同様の事例があり、90年代最小加工寸の縮小の継続という技術世代の進行が進んでいたが、その状況下で日本企業は、半導体企業と製造装置企業が緊密に結びつく必要があると主張した。しかし現実には露光機と計測装置のようなプロセス上の関連の強い製造装置企業同士が協業プロセスを構築し、レファレンス・デザインを半導体企業に提出し、半導体企業と製造装置企業間に知識共有を必要としない生産プロセスが開発された。プラットフォーム化された製造装置は、台湾、韓国をメンバーとするオープンネットワーク型の半導体産業に普及していった。

 ユーザ企業との関係マネジメントについては、ボッシュとデンソーの比較事例を紹介する。自動車エンジンのECU(Electronic Control Unit)はエンジン制御のパラメータ計算を行い、安定的駆動力のみならず、排ガス規制遵守やエンジンブロックの長寿命化も依存しているものである。統合制御のECUだけでなく、エンジン、ブレーキ、トランスミッションに各ECUが車載ネットワークで連結されて成立しており、今後の成長分野と考えられる。大手ECUサプライヤーは全て中国に進出しているが、主に本国自動車メーカーの中国進出に伴うものであるが、ボッシュは合資系だけでなく民族系にも提供して事実上の標準となっている。統合機能のECUについて、デンソーはカスタマイズ要求に応えるべく中国現地のサプライヤーのエンジニアを開発に深く参加させており、膨大なコストがかかると同時に、技術・知識移転が不可避である。ボッシュは基本的には標準品を使い、企業間のコミュニケーションパターンとしては簡明アプローチに近いものとする。市場が競争的でコスト低減要求がありECUに規模の経済が求められるからである。両者の取り組みの違いがどうなるか、今後の展開が注目される。

 プラットフォーム戦略の成功要因とその国際的影響について、基本命題として、「グローバル・エコシステムでオープン標準が頻繁に形成されると、プラットフォーム企業がドミナントな競争優位を得る。プラットフォーム企業の成功は国際的な産業構造の変革を引き起こす」を立て、その下位命題として「プラットフォーム企業は、オープン標準化を戦略的に活用して競争優位を得る」「プラットフォーム企業は、取引ネットワーク内のハブに位置取りすることによって、複数の市場にまたがる情報を媒介」「プラットフォーム企業は二面市場戦略、バンドリング戦略や企業間の関係マネジメントなど市場構造に基づいた戦略を実行」「グローバル・エコシステム形成の過程で、プラットフォーム企業が台頭すると国際的な産業構造の転換を引き起こしてしまう」に分解して検討し立証している。特に最後の間接効果は、ネットワーク企業のグローバル活動が顕現している中で、不思議に研究対象となっていなかった。

プラットフォーム企業の戦略オプションとしてその行動と、共存企業、ユーザ企業の反応行動は、展開型ゲームの形で論述できる。インフレクションポイントで手番が共存企業、ユーザ企業にある場合、プラットフォーム企業は収益を共存企業、ユーザ企業側のものとすることを阻止できない。事例として、DVD規格の標準化を主導した日本のエレクトロニクス企業は多くの標準必須特許を有し技術面でも明らかに優で位にあった。しかし戦略的標準化は全く行われず明確なビジネスモデルもなく際限なく妥協していった。本来DVDで形成されたコンテンツデリバリ―システムのプラットフォーム企業になれたはずであるが、その企業行動はDVDプレイヤーやDVDドライブを大量に販売するという製造企業のものであった。

 プラットフォーム企業戦略的標準化の共通点としては、標準化に先立って何がコアビジネス化を決める必要がある。戦略的標準化以外の担当部署をもまとめた戦略的組織行動が必要になる。日本の課題として、プラットフォーム戦略を採る企業が少なく米国に集中している。内部の意思決定プロセスとの関連性が今後の研究課題である。また。相手がいるものなので従前の研究対象であるプラットフォーム企業の当初の戦略的意図だけでなく、不確実性を伴ったプロセスにおける戦略研究が必要である。

 近年トヨタは、水素燃料自動車に関する特許を開放し、共存企業、ユーザ企業の参入を促す動きが顕著になっている。自動車産業は長年非エコシステム的な産業構造とされてきた。最近の自動走行技術の導入、配車サービス企業の登場で既存の製品アーキテクチャに新しいレイヤーが追加されつつある。また背後の分業ネットワークは劇的にエコシステム型に変化している。IoT、ビッグデータ、AI等のコモデティ化により、データドリブンなビジネスモデルには強いネットワーク効果が発生するが、自動車走行データは自動走行や配車サービスの予測モデル構築に絶好であるし、宿泊、観光といった周辺サービスとのマッチングも考えられる。その意味でトヨタ等の今後の企業動向が注目される。



「プラットフォーム・レボリューション」

プラットフォームというビジネスモデルによる経済的、社会的、技術的な強い力によって、この20年間世の中が変わりつつある。本書は様々な企業の実例を紹介するものだが、「ツーサイド・ネットワーク」という新しい経済理論を考案している。パーカーとアルスタインによる「ツーサイド・プラットフォーム戦略」(ハーバードビジネスレビュー)は通常のMBAプログラムに取り入れられている。

 情報が重要な要素となる業界はどこでもプラットフォーム革命が起こりえる。情報を主に扱う教育、出版、教育だけでなく、顧客ニーズ、価格変動、需要と供給、市場変動に関する情報へのアクセスが重要なビジネス、すなわちほぼ全てのビジネスとなる。プラットフォームの基本定義は、「外部の生産者と消費者が相互にインターラクションを行うことにより価値を新たに創造することを基本に、相互に関係しあえるようなオープンな参加型のインフラを提供するとともに、そのガバナンスの条件を整えるもの」としている。これに対して従来のビジネスは、直線的バリューチェーン(パイプライン)を通じて提供され、非効率的なゲートキーパーが、生産者から消費者までの価値の流れを管理してきた。ここで、プラットフォームは新たな供給を既存の市場に顕在化させることによって従来の競争状況自体を破壊していった。例えばシェアリングエコノミーの発現には信用や信頼性の立証が必要だが、不履行時の保険システムや評判システムを提供してこれらの課題を解決した。

 本書では、ビジネスの様々なフェーズにおけるプラットフォーム企業の動向について実例を挙げながら具体的に説明していく。

 プラットフォームの基本目的はコア・インタラクション(中核となる相互の関わり合い)の促進であり、その構成要素は、参加者、価値単位、フィルター(アルゴリズムを組んだソフトウエア・ツール)の3つである。

 重層的なインタラクションの拡張のアイデアの例として、ウーバーは新たな運転手の最適な人材の多くが、新しい移民であることに気づき、自社の運転手向けの自動車ローンの保証人になるとともに、売り上げから返済分を天引きするシステムを導入したのである。

 技術の進展によりプラットフォームの再設計が必要になる例として、インテルを取り上げる。1990年代にCPUの性能は18~24か月で倍になっていた。GPU、RAM、ハードディスクも同様だがその間の通信システムはISAという古い標準で能力を発揮できずPCが売れてなかった。USB規格に投資しCPIバスにマウス、カメラ、キーボード外部ハードディスクなどを接続させエコシステムを形成した。

 プラットフォームのコンセプトはシンプルで数千年もの間、実践してきたもの。現代のプラットフォームビジネスとの差はデジタル技術によるもので、予想のつかない形で圧倒的産業変革力を与えている。ただし、このテクノロジーを、価値創造を再構成する革新的なビジネス設計で支援する必要がある。例えば、ワープロ、タイポグラフィ、グラフィックデザインのソフトは数十年前からあるが、アマゾンによるキンドル・パブリッシングのプラットフォームまで、作家によるエコシステムはなかった。つまり既存ビジネスの破壊の主因は技術ではなく、プラットフォームの台頭によって、多くの業界で「仲介機能の再構築」「所有とコントロールの分離」「市場の集約」という現象を通じた構造変化があったからである。

 ツーサイド市場の価格戦略で複雑な要因間のバランスをとるのは簡単ではない。例えば、ネットスケープはウェブサーバーを販売しようとブラウザを無料で提供したが、両者間を確実にコントロールできず、ユーザはマイクロソフトやアパッチのウェブサーバーを使うことができた。管理の行き届いたプラットフォームは価値創造へのアクセス、市場へのアクセス、ツールへのアクセス、キュレーションという4つの形で余剰価値を創出できる。収益化とは余剰価値の一部を獲得することという。

 プラットフォームの利用範囲を規定するオープン性を適切なレベルで調整することは、最も複雑かつ重要な意思決定である。例えば、ジョブスは1980年代、アップルのマッキントッシュパソコンをクローズなシステムとし続けるというミスを犯した。対してマイクロソフトは、大したことのないOSを外部開発者に開放しPCメーカーにライセンスを与え、膨大なイノベーションにつなげた。また、iPhoneは洗練されているがシェアは15%、対してグーグルのAOSPはコントロールが緩くシェアは80%。ただ、AOSPのOSはユーザのトラフィックをグーグル・オンラインサービスに自動的に導けず、収益、データフローを得られなかった。そこでグーグルは路線変更しアンドロイドを一部クローズ化した。

 何をオープンにし何を所有するか。拡張アプリが生み出す価値の量によるが、主なユーザ価値の源泉をコントロールするため、そのアプリや開発企業を買収することも考慮すべき点である。特定のアプリ自体が強力なプラットフォームになりはしないかという観点である。関連する例として、2012年時点でグーグルマップ(地図サービス、スマホユーザ向け場所データなど)はiPhoneの人気機能だった。アップルは自前の地図アプリを作成することとし、当初はできの悪さから大恥をかいたが今はコントロールできている。

 ガバナンス、価値向上と成長強化のための方針については、一部の巨大プラットフォーム企業は、既に何百万もの人びとの生活に対して非公式な取締り官の役割を行っている。従って、最善の方法で富を創出し公正に分配するという、数千年かけて発展してきた優れたガバナンス原則を都市や国家から学ばなければならない。例として、アマゾンのAWSの成功の根底には透明性の原則があり、異なる部門間で、明確で柔軟性があり、普遍的に理解できるプロトコルを組み合わせて1つのオペレーションを作ってきている。これによりアマゾンの膨大なデータを組織内の誰でもアクセス可能となるだけでなく、広範な外部アプリケーションを持てることにつながる。

 プラットフォームが考慮すべき評価指標は何か。ライフサイクルと指標の設計として、まず立ち上げ期には最重要資産の成長を追求すべきで、積極的な生産者と消費者によるインターラクションはプラットフォームの成否を左右する正のネットワーク効果を生み出す鍵である。指標としては、流動性、マッチング、品質、信頼性などであって、パイプライン事業で重要とされる伝統的指標の一部、売上高、キャッシュフロー、利益率は概ね無関係である。

 クリティカル・マスに達した後は収益化が課題であり、重要指標は、顧客維持率やアクティブユーザから有料顧客への転換率となる。生産者サイドの見落としがちな指標であるインターラクションの失敗もモニターすべきである。また、従前取り上げられていない消費者サイドの指標も考慮すべきで、例えばエアビーアンドビーでは最高のホストはユーザとしての経験者であることに気づき、消費者を生産者に変える注力をしているが、そこではサイドの切り替え率が重要な指標となる。

 成熟段階では、コア・プラットフォームに欠けていて、開発者が考案した拡張機能を吸収する可能性について検討する。マイクロソフト・ウインドウズのディスクデフラグメンテイション、ファイル暗号化、メディアプレーヤー、あるいはシスコ・AXPの安全対策向上、カスタマイズ監視システムなど、複数の産業にまたがって同じケイパビリティが達成されている事例を探すのである。

 プラットフォームによる競争の変化とは何か。プラットフォームは企業の境界を拡大し、今や戦略家にとって競争より協働と共創を、社内価値保護より社外での価値創造が重視される。この新戦略の中でも、マルチホーミングを制限する努力がされている。事例として、アドビのフラッシュ・プレイヤーはiPhoneのOS上でアプリ開発者によって作成され、インターネットのコンテンツをユーザに届けるブラウザであるが、アップルはiOSで互換性をなくし、自社開発の独自ツールを使うよう求めた。フラッシュで開発されたアプリはグーグル・アンドロイドでウエッブ・ページにつながりマルチホーミングとなることを懸念したからである。また別の事例として、アリババがトラフィック集めに苦労していたころにも拘わらず、CEO馬雲の判断で中国最大の検索エンジンである百度によるサイト検索をできなくした。アリババの長期戦略として、広告販売を収益化する可能性を視野に、買い物客コミュニティのコントロールを保持したのである。

 プラットフォームに対する規制政策はどうあるべきか。アクセス制限に関する政府の介入など、情報が少ない世界では合理的であったが、豊富な情報があれば、データ主導の説明責任に基づく規制が合理的となり、政府の役割は事後の透明性の要件を確立し実施することになる(規制2.0の時代)。斬新な考えを必要とする規制問題としては、互換性、公平なプライシング、データのプライバシーとセキュリティ、国による情報資産の管理、税制、労働規制など。

 プラットフォーム革命の未来について、欧米での18世紀~19世紀の産業革命による混乱にうまく対応するために何世紀も要した。その結果、労働組合活動、近代的スキルに基づく教育制度、社会的セーフネットが整備されてきた。

 プラットフォーム革命がもたらす経済的、社会的、政治的パワーシフトに現代社会が対応するには時間がかかり、それゆえ革命の輪郭が明らかになりつつある今、検討を始めるべきである。

以上が三点の概要である。近年プライバシーの保護や独禁政策、産業政策の観点から、巨大プラットフォーム企業を規制する動きが伝えられている。しかしこれらの書が指摘するようにプラットフォーム企業に関連するエコシステムは広範かつ複雑で、伝統的な経済法観念によるルール作りは難しく、新たな概念構成が必要になるのであろう。また、「プラットフォーム企業のグローバル戦略」で述べられているように、日本企業にはプラットフォーム・エコシステムを形成しにくい組織的性格があるのか、またそれをどう克服していけばいいのか、さらなる研究が俟たれるところである。

                            (見城 中)

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