NYT紙は、4月9日、「マードック帝国の中心で、親族間の対立深まる」と報じている。
民間人が世界の大きな出来事に影響を与えることはそれほどないが、Rupert Murdoch氏は、米国
だけでなく世界中の英語圏で大きな影響力を持つ。北米、欧州、豪州で、言論報道機関を右翼系に
転換させ、民主主義を不安定化させている。
【混乱の中心】
Fox Newsは、長く共和党寄りで、最近、移民排斥主義的なトーンを強め、極右の台頭、トランプ
大統領の当選に力を発揮した。The Sun紙は英国でEUを悪者扱いし、Brexitキャンペーンを主導し、
2016年の国民投票で辛うじて過半数を握ることに成功した。豪州では、より大きなメディア支配を
行い、炭素税政策を止めさせ、Malcom Turnbull氏をはじめ、自分の好まない首相を次々と辞任に
追い込んだ。このような各国の最近の混乱の中心には、いつもMurdoch一族が存在する。
しかし、88歳になるRupert Murdoch氏から息子Lanchlan Murdoch氏に権力が受け継がれる中、
3人の子供達の退去や、映画スタジオ「21st Century Fox」のDisneyへの売却(713億ドル)など、
Murdoch帝国の大きな縮小が見られる一方で、Disneyへの売却で、子供達が億万長者になったほか、
Lanchlan氏は、縮小はしたものの、最も強力な政治的資産Fox Newsを持つFox Corporationの
支配者となった。
【相続問題】
特に2人の息子、Lanchlan氏とJames氏の間での相続問題が、マードック帝国の緊張関係の中心。
James氏はもっとデジタルに特化し、政治的には中庸的な指向が強く、Lanchlan氏は現在のような
保守的政治指向が強いように、2人は異なる性格。2人は父親を継ぐべく競争し、二人とも、父の後を
相続するものと感じてきた。しかし、父のRupert Murdoch氏はLanchlan氏を後継に決め、その旨
James氏に告げる役をLanchlan氏に命じたため、両者の関係は一層冷たいものとなった。
James氏は、抗議の意味を込め、一時、会社を辞めたが、暫くして、Lanchlan氏の相続を認める
ものの、対外的にはJames氏も相続人の一人であるように行動するとの妥協点を見出し、復帰した。
しかし、この相続問題の妥協は、昨年、Disneyへの売却問題やRupert Murdoch氏の脊椎骨折で、
混乱が生じることとなった。病院に担ぎこまれ、死も間近と、夫人のモデルJerry Hall女史が子供達を
呼び寄せたが、結局、生き返り、この今わの際の出来事が一族の不安定ぶりを明かにした。
【トランプ支援】
マードックのメディア帝国は、右翼政治を活性化し、最近、地球規模で保守的ポピュリズムを過熱
化させている。2016年の大統領選では、Fox Newsの司会者Sean Hannity氏は、個人弁護士だった
Michael Cohen氏に対し、トランプ氏がトラブルに巻き込まれないよう、女性問題などでアドバイス
を与えた。
マードック帝国は、長年にわたりLanchlan氏の支配下にある豪州でも大胆な行動に出ている。地球
温暖化問題や同性婚問題などで、The Australia紙のかつての論調をひっくり返したほか、2013年の
選挙では、Lanchlan氏が親しいTony Abbott氏が首相になるよう、新聞で応援した。
2016年、Sky News Australia社の支配権を取得し、Fox Newsのビジネスモデルを導入して以降は、
マードック一族は豪州の政治を変えてしまった。直ぐ、人種、移民、地球温暖化などを頻繁に取り上
げる、右翼的世論を受けた政治ショーを始め、番組は「Sky After Dark」と有名になった。
昨年、Turnbull氏らは、Rupert Murdoch氏とLanchlan氏を、メディアを使って政党間闘争を嗾け、
自身を首相の座から追い落としを手助けしたと非難した。
【James氏のFox News嫌い】
James氏は、Lanchlan氏が後継となる前から、マードック帝国に幻滅感を持つようになった。特に、
Fox Newsについては、会社の足を引っ張る厄介者と見ていた。Fox NewsのCEOだったRoger Ailes
氏がセクハラ問題で解雇されたとき、James氏はFox Newsを党派色の弱いニュース報道機関に改めよ
うとし、CBSのCEOだったDavid Rhodes氏を迎えようとまでした。この提案は結局、採用されず、
父親Rupert氏とLanchlan氏は、従来通りのFox Newsを続けることにした。James氏にとって、
現在のFox Newsはマードック帝国で百害あって一利なしと感じている。トランプ大統領の肩入れし
過ぎだし、番組で陰謀論の拡散を図ったり、セクハラも横行し、英国では、社内で倫理的問題も起こっ
ている。しかし、Lanchlan氏は、James氏とは全く違う考えの持ち主。
【Disneyとの取引】
21st Century FoxのDisneyへの売却問題について、その将来見通しに関し、James氏とLanchlan氏
の考えは全く異なった。James氏はDisneyへの売却に積極的だったのに対し、Lanchlan氏は、マード
ック帝国が大規模に縮小するため、強く反対した。また、その反対の背景にはJames氏の野心への疑問
もあった。というのは、21st Century Foxの売却額が市場価値より安いのは、売却後、James氏が
Disneyで新たなポストを得るためではないかと疑った。
2人の息子は、事あるごとに、全ての問題で衝突した。例えば、トランプ大統領のイスラム教国出身
者の渡航禁止問題への対応や、父所有のBeverly Hills邸宅の売却問題でも、ぶつかった。
今日、二人の息子は、ほとんど会話をすることがない状態となっている。
【3人の子供達の退去】
Disneyとの取引で、父親のRupert Murdoch氏は40億ドル、子供達はそれぞれ20億ドルずつ得たが、
Lanchlan氏とJames氏は、更にDisney株2000万ドル相当と、ゴールデン・パラシュート7000万ドル
相当をそれぞれ得た。Rupert Murdoch氏は、21st Century Fox、News Corporationなどマードック帝国
の再編を行い、Murdoch family Trustがグループ全体の支配権を持つとし、そのTrustの議決権8件の
うち、半分の4件をRupert氏が持ち、残りの4件をそれぞれ大人になった子供達4人で持つこととした
が、James氏は2018年末、マードック帝国から完全に足を抜くため、二人の姉妹Elizabeth女史、
Prudence女史とともに、株は外部に売ることは禁止されているので、Lanchlan氏に売却を申し出てお
り、子供達のマードック帝国に対する関わり方がどうなるのか、疑問が生じている。
これに対し、父親のRupert氏は同意しており、Lanchlan氏に兄弟からの株購入を勧めているが、株
売買の関係書類を進める銀行に対し、Lanchlan氏は財政的に実現可能か疑問と話しており、Lanchlan氏
がどこまでマードック帝国の経営にコミットしようとしているのか疑問が生じている。
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